公演の記録 第2回 狂言「射狸」/能「熊野」


第1回公演の「野宮」からほぼ2年。
前回の公演終了直後から3人で次回公演に向け案を出し合い準備を進めて参りましたが、ようやく第2回公演の開催に漕ぎつけました。
前回は【能1番を3人で】という思いを第一に考え、能「野宮」一番のみという番組にいたしましたが、今回は趣向を変え、自ら望んだこの研鑽の場で、それぞれが初挑戦の大曲に挑みます。
演目は大蔵流狂言「射狸」、そして宝生流能「熊野」を膝行三段之舞の小書(特殊演出)付きにてご覧頂きます。
「射狸」は大曲「釣狐」の狸版とも言われる作品。「釣狐」に比べておおらかな趣きを持ちながら詩情溢れる曲で、大蔵流では古くから秘曲として非常に大事にされています。この上演頻度が極めて稀な演目に山本泰太郎が初めて挑みます。
「熊野」は昔から「熊野松風に米の飯」と言われるようにいつ何度観ても飽きない春の名曲。宝生流の小書、膝行三段之舞は演出や装束が変わるに伴い、一曲としての格式も上がり、ワキ方、笛方にとっても大変重い習いとして扱われています。もちろん大日方寛・竹市学両人とも演じるのは今回が初めてです。
趣向は前回と違いますが、各々がこれまで舞台に取り組んできた姿勢と積み重ねてきた力、そして、さらに先に進もうという意思の強さが問われることに変わりはありません。いわば三つ巴で挑んだ前回の「野宮」。今回は各々が持てる力を尽くし三者並立の意気で臨みます。
宝生流は国立第2期研修担当のお流儀。お家元はじめ我々が平素よりお世話になっている皆様にご出演頂きます。特におシテの武田孝史師はいまや宝生流を担う重鎮のお方、そして硯修會同人・大日方が大学時代に所属していた能楽サークルの師範でもあられました。若かりし頃に頂いたご縁がこの会に繋がった機縁を心からありがたく存じております。
また、お囃子方も我々が全幅の信頼を寄せる皆様にお力添え賜ります。
前回同様、我々の姿を長く見てきて下さった皆様に囲まれて大曲に挑むことに感謝いたし、自ら名付けた「硯修」の名に恥じぬよう懸命に勤めたいと思います。
何卒ご高覧頂けますようよろしくお願い申し上げます。


射狸(いだぬき)


◆登場人物

前シテ 猟師の伯母(狸の変装)
後シテ 狸
アド 猟師
 

概要

猟師の男(アド)によって、親類の殆どを狩られてしまった狸(前シテ)。狸は猟を止めさせるべく、男の伯母に変装して説得を試みる。渋りつつも、最後には猟を止めようと約束した男。その言葉に満足した狸は、上機嫌で小歌を謡いつつ、夜の野道を帰ってゆく。ところが、そこへ男がやって来た。実は彼は、猟を諦めてはいなかったのだ。伯母の不審な姿に、狸の変装だと気づいた男。怒り心頭の男を前に、狸は一目散に逃げてゆく。
草叢に逃げ込んだ狸を、男は捜す。やがて、「名高き“狸の腹鼓”を見せたならば命を助けよう」との男の言葉に、真の姿を現した狸(後シテ)。必死で腹鼓の芸を見せる狸に、男はすっかり上機嫌となる。しかし狸が隙を突いて弓矢を奪うや、男はそれを奪い返し、再び狸を追ってゆくのだった。

熊野(ゆや)


◆登場人物

シテ 池田宿の遊女 熊野(ゆや)
ツレ 熊野の侍女 朝顔
ワキ 平宗盛(たいらのむねもり)
ワキツレ 平宗盛の従者
 

概要

遠江国 池田宿の遊女・熊野(シテ)は、平宗盛(ワキ)の寵愛を受け、都に留め置かれていた。病気の老母をもつ彼女は度々暇を乞うものの、なかなか帰郷の許しが出ない。そうする内、余命僅かの身を嘆く母の手紙をたずさえ、侍女の朝顔(ツレ)が訪ねて来た。熊野は手紙を宗盛の前で披露するが、宗盛はなおも帰郷を許さず、そればかりか彼女を花見の供に連れ出してしまう。
一行は東山へと向かい、熊野は京の様々な景物を目にしては愁いに沈む。やがて清水寺へ着いた宗盛たちは酒宴をはじめ、熊野は母の身を案じつつも桜をめでて優雅に舞う。そのとき、にわかの通り雨に散ってゆく花を見た熊野は、母の面影を重ねて歌を詠む。その歌に心動かされた宗盛は、ついに彼女の帰郷を許すのだった。

文:中野顕正(東京大学大学院生)

写真:石田 裕 *写真の無断使用・無断転載は固くお断りいたします。

 
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