第3回公演のお知らせ

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第3回公演を開催させて頂きます。
能一番を三人で、という思いで臨んだ第1回の能「野宮」。
各々が初挑戦の大曲に挑んだ第2回の狂言「射狸」と能「熊野 膝行三段之舞」。
今回は一調一管「龍田」、狂言「縄絢」、そして能「隅田川」とさらに個々に焦点を当てた演目にてご覧頂きます。

この度の開催にあたっては、世の情勢を考えまして躊躇いたすところも多々ございましたが、この硯修會という会名に込めました【虚心坦懐に我が身を修め舞台に臨む】という所信を改めて思い起こし、開催を決意いたしました。
各々がこれまで舞台に取り組んできた姿勢と積み重ねてきた力、そして、さらに少しでも先へ進もうという意思。世の状況がどうあろうと変わる事のない、ひたむきに舞台に臨む姿を皆様にご覧頂けますよう懸命に勤めたいと存じております。

今回も前回二回と同様、我々の姿を長く見守ってきて下さった先生方や諸先輩方にご出演賜りますことを心から感謝いたし、自ら名付けた「硯修」の名に恥じぬよう心して勤める所存でおります。
何卒ご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。



【一調一管】龍田(たつた)

概要

《龍田》は、秋を司る神として名高い龍田明神の神徳を描いた作品です。旅の僧侶たちの前に現れた明神は、古来より歌人たちに愛されてきた龍田の里の致景を讃えます。冬の訪れを迎え、川面の氷に閉じ込められた紅葉の色。それは、過ぎ去ってしまった秋の記憶を閉じ込める、追憶の美の姿だったのです。季節の移ろいに感興を催した明神は、冴えわたる月光の下、吹き乱れゆく紅葉のなかで神楽を舞いはじめるのでした。  今回は、明神が神楽を舞う場面を、謡および笛・小鼓の重奏(「一調一管」)の形式でお聴き頂きます。



【狂言】縄綯(なわない)


◆登場人物
 シテ 太郎冠者
 アド 主人
 アド 主人の博打仲間

ストーリーと舞台の流れ

1. アド(主人)が登場し、シテを呼び出します。
博打に心を奪われてしまった、一人の男(アド)。すっかり賭け事の虜となってしまった彼は、使用人の太郎冠者すらをも賭け物にして、博打を打ち続ける。ところが結果は負け続け、彼は大切な太郎冠者を博打仲間に取られてしまうことに。真相を話したならば、きっと太郎冠者は抵抗するだろう――。そう考えた男は、太郎冠者(シテ)を呼び出すと、その仲間に手紙を届けてくれと言って送り出す。


2. シテはアド(博打仲間)のもとへ行き、真相を聞かされます。
主人の博打好きを苦々しく思いつつ、手紙を届けに行く太郎冠者。例の博打仲間(アド)のもとを訪れた太郎冠者は、そこで真相を聞かされる。驚く太郎冠者に、彼は受け取った手紙の内容を見せる。そこには確かに、主人の筆跡で「太郎冠者の雇用権を譲ろう」と書かれていた。


3. シテに抵抗されたアド(博打仲間)は、アド(主人)へ苦情を言いに行きます。
さっそく、太郎冠者へ仕事を命じる博打仲間。ところが、ふてくされた太郎冠者は色々と言い訳をし、命令に従おうとしない。その態度に立腹し、元の主人のもとへ苦情を言いに行く博打仲間。使い物にならないと抗議する彼へ、主人は一計を案じる。主人は、太郎冠者の仕事ぶりを見せようと言うと、太郎冠者を一度こちらへ戻すよう提案する。


4. アド(博打仲間)はシテをアド(主人)のもとへ帰します。
自宅へ戻った博打仲間は、太郎冠者に向かい、主人のもとへ帰るよう告げる。再び博打をしたところ今度は負けてしまい、太郎冠者の雇用権を手放すことになった――と口実をつける彼。その言葉を聞いた太郎冠者は、晴れ晴れとした気持ちで帰ってゆく。


5. 帰ってきたシテへ、アド(主人)は縄を綯うよう命じます。
戻り着いた太郎冠者。苦情を言う太郎冠者へ、主人は謝りつつ宥めすかすと、さっそく縄を綯うよう命じる。縄を綯うのは太郎冠者の得意技。気持ちよく帰ってきた太郎冠者は、後ろで縄を押さえておくよう主人に頼むと、意気揚々と縄を綯いはじめる。


6. シテは縄を綯いつつ、新しい雇用先での不満を述べはじめます。
縄を綯う太郎冠者。単純作業を進めるうち、その心には様々な記憶が蘇ってきた。湧き上がる不快な思い出の数々を抑えきれず、新しい雇用先で経験した憤りを口にしはじめた太郎冠者。台所の見すぼらしさ、子供たちの煩わしさ、奥方の意地悪さと醜悪さ…。太郎冠者の口からは、そんな悪口の数々が溢れ出す。


7. アド(博打仲間)はアド(主人)と入れ替わり、シテの悪口を聞きます。
やがて、様子を覗きに来た博打仲間。彼は太郎冠者の仕事ぶりを見届けるべく、元の主人と入れ替わる。そうとも知らず、彼の奥方や子供たちを悪しざまに罵り続ける太郎冠者。太郎冠者は、奥方に隠れて子供たちに体罰を加えたことなどを語りつつ、暴言の限りを尽くすのだった。


8. アド(博打仲間)はシテに怒り、逃げるシテを追ってゆきます。(終)
全てを聞き届けた博打仲間。その姿に気づいた太郎冠者は、ばつの悪い顔で取り繕う。子供たちを殴り飛ばし、愛しい妻を罵倒した太郎冠者へ、怒り心頭の博打仲間。彼は太郎冠者へ怒りをぶつけると、逃げる太郎冠者を追ってゆくのだった――。



【能】隅田川(すみだがわ)


◆登場人物
 シテ 梅若丸の母(物狂い)
 子方 梅若丸の幽霊
 ワキ 船頭
 ワキツレ 旅の男

ストーリーと舞台の流れ

1. ワキが登場し、次いでワキツレが登場します。
春のうららの隅田川。空には鴎が舞い遊び、心地よい風が抜けてゆく。渡し場では船頭(ワキ)が、乗客の揃うのをのんびりと待っていた。そんな、のどかな春のある日のこと。
そこへ、都からの旅人(ワキツレ)がやって来た。遥々の道中、この東国の大河までやって来た彼。こうして乗客も揃い、いよいよ出発というその時――、
いま旅人の通って来た道が、なにやらガヤガヤと騒がしい。聞けば、都から女物狂いが下ってきたのだという。船頭は、その女を待ってみることにした。


2. シテが登場して狂乱の態を見せ(〔カケリ〕)、隅田川に至ります。
そこへやって来た狂女(シテ)。「人商人にさらわれ、行方不明となってしまったわが子。あの子は今、どこで何をしているの…」 もとは都の住人であった彼女は、愛する一人息子を失った悲しみから、わが子を慕ってこの関東まで下ってきたのだった。風の便りに身を任せ、遥かの旅路を急ぐ狂女。こうして彼女は、隅田川へとたどり着いたのだった。


3. シテはワキと言葉を交わし、在原業平の故事に思いを馳せつつ舞い戯れます。
舟に乗ろうとする彼女。芸を見せろと意地悪を言う船頭に、彼女は言い返す。「隅田川の船頭なら、かの在原業平の昔のように、『日も暮れてきた、舟に乗れ』と仰るべきでしょう。そう、業平が愛する人への思いを都鳥に託したのも、ちょうどこの川だった…」 すっかり業平になりきってしまった彼女。洒落の通じぬ船頭を尻目に、彼女はひとり浮かれ出す。「東国にいた業平は都の恋人を想い、都人の私は東に行ってしまったあの子を慕う。業平も私も、想いは同じ。だから船頭さん、舟に乗せて下さいな…」。


4. ワキは舟を漕ぎつつ、対岸の柳にまつわる謂われを語ります(〔語リ〕)。
こうして狂女も乗船し、いよいよ舟は出発した。やがて乗客の一人が、対岸の柳のもとに集う群集に気づく。それは、大念仏の集まりだった。船頭は、その謂われを語りはじめる。
――去年の今日。人商人に伴われ、一人の幼子が下ってきた。ところがその子は重病となり、商人は彼を見捨てて行ってしまう。私達は懸命に介抱したが、次第に衰えていって…。いよいよという時、彼は虫の息で自らの名を明かし、こう言ったのだ。『父亡き後、母と暮らしていた所を誘拐された私。都の人の面影が恋しいので、この街道の傍らに葬り、墓標として柳を植えて下さい…』 そして念仏を少々唱えると、彼は息絶えたのだ――。


5. シテはワキに話の内容を再確認し、その子こそ自分の子だと明かします。
そんな話をする内に、舟は対岸に着いた。しかし狂女はひとり、いつまでも舟の中でさめざめと泣いていた。「もうし、船頭さん…」 彼女は、今の話の内容を再度尋ねてゆく。不審ながらも答える船頭。年齢、その子の名、父の姓名。子供の死後に訪ねて来た親族はいるか…。ひとつひとつ、船頭に確認してゆく彼女。そして――、
「船頭さん、その子こそ、私が捜し求めていた子なのです…!」


6. シテはわが子の墓へと案内され、そこで泣き崩れます。
現実は、何とも残酷なもの。驚いた船頭は、彼女をその子の墓へ案内してやる。
塚に向かい、静かに口を開く母。「いままで遥々旅をして来られたのも、全てはあの子に出逢えるかもと思えばこそ。それなのに、出逢えたものはこの墓標ばかり…。この下に、あの子は眠っているのね――!」 この墓を掘り返し、わが子を一目見たいと言い出す母。彼女は悲しみのあまり取り乱し、墓前で泣き崩れてしまうのだった。


7. シテは鉦鼓を打って念仏を唱え、わが子の霊を弔います。
やがて宵の時刻。塚へと集う人々はその数を増し、大念仏がはじまった。いつまでも泣いていた彼女へ、優しく声をかける船頭。「あの子にとっても、お母さんに弔ってもらうのが一番の喜びでしょう」 その言葉に励まされ、母もまた念仏に加わる。
幼子を悼む、人々の大合唱。鉦鼓の音は物悲しく響き、波風までもが、念仏の声に音を添えるよう。私達の思いよ、西のかなたへ届け――。群衆は、心を合わせて念仏を唱える。



8. 子方が出現してシテに姿を見せ、再び消えてゆきます。(終)
その時。人々の声に混じって、子供の声が聞こえてきた。はっとする人々。母は群衆に促され、ひとり念仏を続ける。すると、塚の内から、その声ははっきりと聞こえてきた。念仏を介した、母と子の対話。そして――、わが子の幽霊(子方)が、その姿を現した。
夢にまで見た、わが子との再会。しかし、抱きしめようとする母を、息子はすり抜けてしまう。見え隠れする幽霊と、追い求める母。そうする内にも夜は白みはじめ、子供の姿は消えてゆく。あとには、春風に揺れる塚の柳だけが、そこには残っていたのだった。


文:中野顕正